恋愛は心の問題と思いきや、実は「脳」も深くかかわっていることをご存じでしたか?
恋愛・結婚、夫婦関係などについての「お悩み」について、各メディアでご活躍中の脳科学者・細田千尋先生にお話をうかがいました。このシリーズは、5回にわたってお送りします。
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第3回のお悩みは、「元彼が忘れられなくて、次の恋に進めない」です。
美雪さん 会社員 23歳
関西在住で、高校から大学卒業まで5年ほど付き合っていた彼がいます。去年、お互いに地元の企業に就職して、2,3年後には結婚かななんて彼との将来を夢見ていたのですが、入社後、彼は東京に配属になり、遠距離恋愛になりました。最初のうちは、lineでしょっちゅうやり取りして、週末には電話やビデオ通話で話をしたりしていたのですが、そのうち、お互いに忙しくなってしまいだんだん連絡を取る回数が少なくなってきました。
彼は東京の生活をエンジョイしているなということをなんとなく感じていたのですが、「会いに行こうかな」と言ってもスルーされ、この秋とうとう「別れよう」と言われてしまいました。いつかは地元に戻ってくるのかなとも思っていましたが、東京で転職し、もう地元には戻るつもりもないみたいです。
私からしたら、結婚まで夢みた人だったので、突然別れを切り出されても心の整理がつきません。一方的に別れを告げられてからもう半年以上経ちますが、彼のことを思い出しては胸が苦しくなるばかり。周囲の人に目を向けてみようといろいろ努力はするのですが、どんなに周囲がすすめる男性に会っても、また素敵な方がアプローチしてくれても、やっぱり「彼以上に素敵な人はいなかった」と思えて、ますます心はふさぐ一方で、一歩も前に進めないでいます。
<細田先生の分析>
5年も付き合った彼と会えなくなっただけでも辛いのに、だんだん疎遠になって、挙句の果てに一方的に別れを告げられてもなかなか心の整理はつけられませんよね。あなたから既に気持ちが離れてしまっている彼に対して、「自分には彼以上素敵な人はいない」と強く思いこんでしまう気持ちもよくわかりますが、実はそれ「脳と心が作った幻想」かもしれません。
人は、現在自分が持っている、あるいは過去に持っていたものに対して、実際以上に高い価値を感じてしまう傾向があります。また手放すことに心が強く抗います。これを心理学で「保有効果」といいます。
恋愛とは異なりますが、例えば出身校や出身地に愛着を持つ、誇りに思うのも保有効果の一種です。
第1回で「損失回避」に触れましたが、「失いたくない」という気持ちが、美雪さんをより苦しめているのかもしれません。
ただしポイントは、目の前に、または隣にいてくれない彼に対し、実際の彼以上の高い価値を感じ、「彼しかいない」と思うのは、単なる保有効果である可能性もあります。
保有効果によって、素敵さが上乗せされた彼への気持ちをもう一度冷静に考える必要がありそうです。ちなみに保有効果が高くなる人は、常にそのような効果が働くので、新しい彼に巡り合ったら、今固執している彼のことは嘘のように吹っ切れて、新しい彼が最も素敵な人になる可能性も高いはずです。
【細田千尋先生】
東京大学大学院総合文化研究科研究員/科学技術振興機構さきがけ研究員/帝京大学医学部生理学講座助教。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科認知行動医学卒業後、英語学習による脳の可塑性研究を実施し、研究成果が多数のメディアに紹介。その研究をきっかけに、「目標達成できる人か?」を脳構造から判別するAIを作成し特許取得。現在は、プログラミング能力獲得と脳の関連性、 Virtual Realityを利用した学習法、恋愛と脳についても研究をしている。