ソニー生命保険株式会社
ライフプランナー/ファイナンシャルプランナー
高橋宏和さん 後編
フランスの大学でMBAを取得後、商社に入社。その後、6年に及ぶヨーロッパ3か国での駐在生活を送った高橋さん。中でもフランスでの勤務中に課せられた大きな責任を伴うミッションは、学生インターンとして働く高橋さんを可愛がってくれていた従業員を対象としたリストラでした。前編では、本社にかけあい、赤字部門の閉鎖を試みるも、いきなり計画変更を余儀なくされたというまさかの展開に。それは現在生命保険会社のライフプランナーとしてご活躍中の高橋さんのキャリアに大きく影響を及ぼすことになります。
希望退職を告げるのは金曜日の午後。さてその理由とは?
■功を奏したアナウンスの日決定の戦略
アナウンスした日は、予想はしていましたが社内は騒然となりました。僕が「スライドを使いながら、32名の希望退職者を募ります」と労働組合の役員たちに告げると、最初は、ポカンと聞いていた彼らがだんだん色めき立ってくるのがわかりました。その後、従業員のみんなが待つ現場に戻って「こんなことを言われたぞ」と告げると、「ストライキをするのか、しないのか」というような話が始まりました。
実は、希望退職を言い渡すのは金曜日の午後にしようと事前にコンサルタントと戦略を立てていました。仮にすぐにストライキに突入したとしても、その日の夜の22時までならもちこたえられるという算段でした。
しかも、希望退職をアナウンスした時が一番沸点が高いわけですが、翌日が土日なので週末に、奥さんと話をしたりして、冷静になる時間があります。さらに、もしストライキに突入したとしても、その間は給料が出ないので、総合的に損得を考えるとストライキは避けた方がいいという結論になるだろうと踏んでいました。
■32名の希望退職者募集に手を挙げたのは!?
結局、ストライキは起きませんでした。その後は、退職を希望する従業員を募り、退職金などの条件をすり合わせていく作業を進めました。希望退職者の募集は、何度かにわけるのですが、1回目の募集のときは、7人しか手が挙がらず、32名には到底足りないので、また条件を考え直したり。でも皮肉なもので、残って欲しい人から手が挙がるんです。つまり彼らは、次の仕事を見つけられるという自信があるんですよね。退職しても、次の仕事を見つける自信がない人が残るんですよ。
希望退職者に支払う退職金は、給料数か月分の金額にさらに上積みした金額を提示するのですが、勤続年数も関係しますし、複雑な計算式を用いて一人一人の提示額を決めていく必要があるんです。フランスは、ただでさえ失業率は10%と高い上に、その地域は、かつて炭鉱で栄えた町であることから移民が多く、失業率も20%。家族もある従業員たちを露頭に迷わせるわけにはいきませんから、再就職先までサポートする必要がありました。
1人の従業員の向こうにいる家族の顔も思い浮かべながら
■退職後のキャリアや生活のサポートにも心を尽くす
退職金を上積みするだけではなく、第2のキャリアを考えられるように退職者向けの職業訓練プログラムも用意して、登録を希望する人には、それにかかる費用も出しました。さらに就職先を確保するために、地元の企業や商工会議所を回りました。
退職後のキャリアを後押しするために全従業員と行った個人面談では、いろいろと将来への希望を聞きました。退職の対象となった従業員の中には、パン屋になりたい、写真家を目指したいっていう人たちや、中にはフランスの南の方に引っ越して、大工をやりたいっていう人もいました。その人には、引っ越し代も用意しました。
結局、懸念していたストライキを回避して、当初の予定通り32名の希望退職という任務を遂行した高橋さん、実は、ストライキが起こる可能性も視野に入れ、密かに進めていた計画がありました。