前編では、自分のエステサロンを持つ夢を膨らませていた純子さんが、ある日同じ職場の先輩たちの疲弊しながら働く姿に数年後の自分が重なり、「ここでは夢を叶えることはできない」という現実に気づいたというお話までお届けしました。後編では、一度は現場を離れる純子さんでしたが、エステティシャンとして身につけた高いスキルを惜しんだお客様の一言によって、人生が動いていきます。
―勤務していたエステサロンは、相当ハードな職場だったようですね。
山崎さん:毎日8人~10人のお客様を施術してヘトヘトでした。退職する前の3か月間は1日も休まずに出社していましたが、それでも時間が足りなくてサロンに寝泊まりしていたような状況でした。睡眠時間は、毎日2~3時間。ある日、お客様用のベッドで寝ている私を見た社長が激怒して、「なんで(施術用の)ベッドで寝てるんだ!」って言いながら携帯を投げつけられたこともありました。
―そこまで疲れきっているスタッフに対して、ひどすぎませんか。
山崎さん:ね、そう思いますよね(笑)。それだけではなくて、実は私、疲れ果てて施術中に寝てしまったことがあったんです。もちろん寝入ったわけではなくて、一瞬コクリとした程度だと思うのですが、それに気づいたお客様から会社に連絡が入ってしまいました。激務が原因で起きたことなのに、一方的に厳しく責めたてられました。さすがに「これ以上頑張れない」と退社を決意したんです。
同じように施術中に寝てしまったエステティシャンたちがそれまでに何人もいたのですが、働き方を改善しようとしない会社に失望した人たちは、次々と職場を去っていきました。私は、その店に一生勤めるつもりでいたので辞めるのは本意ではなかったのですが、もう「やりきった」と思えたので心を決めました。後から振り返ってみても、一緒に働いていたスタッフは、結局誰も自分の店を出すことはありませんでした。
―せっかくお店を出す目標を持って、頑張っていらしたのにそれは残念ですね。
山崎さん:退社後、エステサロンの後輩に「純子さんて、運が悪いですよね」っていわれたことがあったんです。自分では全くそんなこと思っていなかったけど、「他人の目には、私は運が悪い人だと映っていたんだな」って。自分自身も、エステの仕事は、頑張ってはいたけど、会社からその努力を認めてもらえていないと感じていました。でもそれは、自分の努力が足りないからだと思っていたんです。「もっと頑張らないと」と思っていたからこそ、休まずに働き続けたんですね。その姿を他人の目から見たら、運が悪いように見えたのかなって思った時にハッとしました。
―うまくいかないのは、自分のせいではない気づかれたんですね。その後、どのように過ごされたのですか?
山崎さん:エステサロンを退職してから2週間くらいは、実家暮らしをしていました。食事以外は、何もせずにゴロゴロして過ごすという生産性のない毎日でした。34歳で失業中で、彼氏も6年くらいいなくて。自分のことを「ゴミと一緒だな」って思って過ごしていました。
そんな私の姿をみかねた母から「日本の保険会社の営業職は、お給料をもらいながら資格が取れるからやってみたら」と言われたんです。全く乗り気ではなかったけど、家でゴロゴロしているよりは、「お給料ももらえるし、いいかな」っていうくらいのノリで行きました。入社試験は、100点満点で合格。合格だとわかった瞬間に喜んだというよりは、「これで“働く”というレールに乗ったんだな」と思いました。
自分がやる気を持って極限までの努力を重ねていたのに、次から次へと思いもよらぬ事態になっていったことを、「自分の努力が足りないからだ」と思っていたという純子さん。この後、いよいよご自身の天職へと運命の舵が切られていきます。
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